石人形

名勝、錦帯橋の下の川の中では人の形をした石が採れます。

これは、ニンギョウトビケラという昆虫が川の中の小石や砂を集めて巣を作ったもので、人の形をしているため石人形(人形石とも)と呼ばれます。

石人形は仏像や七福神などの縁起物に見立てられ、江戸時代から錦帯橋土産として知られています。

川で探して遊ぶ郷土玩具として、お守りとして、また漢詩や和歌、俳句などの題材に利用されるなど岩国独自の文化として古くから愛されています。

 

石人形について


石人形(または人形石)は古くから錦帯橋の名産品として知られています。

錦帯橋・岩国土産として多くの文献に登場し、錦帯橋の人柱の生まれ変わりだという伝説もありました。

自然の郷土玩具として、子どもたちは川で採集することがひとつの遊びとなっていましたし、岩国の吉川家から他家への贈答品として利用されていたこともあります。

石人形を題材にした漢詩や和歌なども数多く残っており、大正時代には石人形社という俳句の会も作られていました。

時には音楽になったり、小説に登場したり、単なるお土産ではなく人と自然をつなぐ存在として現在まで親しまれています。


ニンギョウトビケラについて


トビケラ、カワゲラ、カゲロウなど川に棲む水生昆虫は数えきれないほどいます。

ニンギョウトビケラは国内だけで500種以上もあるとされるトビケラの一種で、ほぼ全国に分布しています。

人の形に石をくっつけて巣を作る種類で、川の流れや川底の様子などでその形は大きく変わります。

錦帯橋周辺では特に形のよい石人形が採れるため、岩国だけでこの石人形の文化が作られているのです。

ニンギョウトビケラの幼虫は口から糸を出して、みのむしのように小石や砂を集めて筒巣(これが石人形)を作ります。

幼虫の時期には巣から頭と足を出して水中を移動し藻類などを食べ、蛹になる前に石に固定し、成虫になると飛んでいきます。

こうして作られる自然石が、時には音楽になったり、小説に登場したり、単なるお土産ではなく人と自然をつなぐ存在として現在まで親しまれています。



年表

1828年(文政11年) 岩国土産落噺/南海 大川人形石の話(大川は錦川の昔の呼び名)

 

1800年代(詳細不明) 本草図説/高木春山(?~1853) 江戸の本草学者、高木春山が作った今でいうカラー動植物図鑑 大黒虫、周防錦帯橋下の産として描かれている

 

1851年(嘉永4年) 滑稽道中宮嶋土産/十方舎一丸 当時の広島・宮島・岩国の旅行ガイドのようなもの 岩国の名物に蓮根や縮などと一緒に紙箱に入った人形石が描かれている

 

1862年(文久2年) 山田新川賦錦川人形石

 

明治の頃(詳細不明) 吉川家から他家の贈り物に人形石は欠かさなかったと書かれている(岩国市史より)  毛利本家、徳山毛利家、外務大臣井上馨、杉孫七郎、華族らに贈られている

 

1882年(明治15年) 大森貝塚を発見したことで知られるアメリカの学者モースが岩国を訪れる のちに著書「日本その日その日」で人形石を土産にもらったこととその挿絵を描いている

 

1901年(明治34年) 岩国案内/岩国郷土史研究会  土産の項に「人形石錦帯橋下より出す福神の形等種々の異状を為せり其の奇妙言はん方なし」とある

 

1909年(明治42年) 岩国案内記/吉田泉 「人形石 其形福神に似て種々あり」とある

 

1910年(明治43年) 韓国皇太子が岩国に来られ、岩国町より錦帯橋の写真や絵葉書、人形石などが献上される(岩国市史より)

 

1918年(大正7年) 岩国の俳句の会、乙鳥会が二派に分かれ、松金指月堂が石人形社として改称し活動

 

1929年(昭和4年) 秩父宮殿下が岩国に来られた際に人形石を手に取りご覧になる(岩国市史より)

 

1936年(昭和11年) 錦帯橋国風景記/横山健堂 人形石は名物店に箱入りにして売っていると書かれている

 

1953年(昭和28年) 錦帯橋再建の渡り初めを記念した石人形が売られる

 

1956年(昭和31年) 高橋金窗による俳誌「石人形」百号記念

 

1970年頃(詳細不明) ナトー製作所がプラスチックに封じ込めた石人形の土産品を販売

 

1979年(昭和54年) 横田勲(錦堂工芸舎)によって製造・販売再開

 

1981年(昭和56年) 或るとき突然/宇野千代 岩国出身の作家宇野千代の随筆、石人形を購入する話が書かれている

 

1983年(昭和58年) ピアノ小曲集「錦川原の詩」/福島淳作曲 第4番に石人形の夢

 

1985年(昭和60年) 帝都物語/荒俣宏 作中で石人形がお守りとして利用されている

 

1991年(平成3年) 山口県の観光キャンペーンで石人形の大名行列のポスターが東京駅や山手線などに広告される

 

2003年(平成15年) 岩国石人形資料館開設